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摂食障害
《ケース1》 20歳 大学生
A子は、生まれつきややふっくらとした体型で、小・中学校時代は、ぽっちゃりとし たかわいいタイプだった。 彼女は15歳のときに、同級生の男の子に初恋をする。そして告白。ところが「痩せた子が好き」という理由で、彼にあっさりふられてしまう。この出来事をきっかけに、彼女のダイエット生活が始まった。
最初は、昼食のサンドイッチの中身だけを食べ、パンのミミを残すというかわいいものだった。ところが、そのうち昼食自体を食べなくなる。
あげくには、夕食もサラダだけにし、身長が155センチなのに体重は38キロにまで痩せてしまう。ウエストは54センチまで細くなり、スカートは全部つめなくてははけなくなってしまった。診察を続けたが、この状態は大学受験の頃まで続く。
この状態が改善されたのは、大学進学という環境の変化が大きく役立った。進学を機に、A子は徐々に回復。現在は、体重48キロと正常に戻っている。
《ケース2》 36歳 会社員
B子は、20代初めの頃から、顔や足のむくみが気になり、薬局で買った(当時は買えた。現在は医師の処方箋が必要)利尿剤を飲んでいた。また、不眠にも悩んでおり、時々病院を訪れては催眠剤ももらっていたという。このときの体重は44キロ。
その2年後、B子は父親を腎臓癌で亡くす。このことは、一人っ子だったB子にとって、大きなショックとなったようだった。この頃から、あまり物を食べる気がしなくなり、体重は半年で10キロ近く減り、35きろとなってしまう。
しかし、本人は痩せていることを全く気にしていなかった。ただ、動悸を自覚したり、生理も不規則になってきたため、母親が心配して病院に連れてきた。
《ケース3》 15歳 中学生
C子は、4人姉弟の長女で、両親と6人暮し。一番下の弟は、身体が弱く、母親はほとんど下の子供達にかかりきりだった。彼女は小さい頃から太りぎみだったが、中学生になり、それを気にするようになる。当時身長は155センチ、体重は65キロだった。また、学校の成績はあまりよいとはいえず、体育も苦手だった。
そして、ここ数ヵ月は食べると気持ち悪くなるという繰り返しで、両親に付き添われ来院。入院となった。
だが、体重は減っていなかった。現在も入院中のC子だが「家に帰りたくない。お父さんは嫌い。お母さんは好き」「学校の水泳教室に行きたくない」と言っている。
《ケース4》 32歳 会社員
父は内科医,母は専業主婦の良家に育ったD子。高校までエスカレーター式の有名私立小学校に入学した彼女は、大学でも、就職してからも、何不自由なく暮らしていた。容姿も美しかったので、男性からの人気もあった。
そんなD子が、24歳のとき会社の上司と不倫の恋に落ちた。「髪の短い痩せた女性が好き」という彼の好みに合わせ、長かった髪を切り、ダイエットもした。その結果、身長160センチでありながら、体重は43キロに。付き合い初めの頃は大した問題はなかったものの、彼との関係が長くなるうちに、自分とも別れず、離婚も切り出さない彼の煮えきらない態度をめぐってケンカが絶えなくなる。
その間、彼女は2度の中絶手術を経験。また、複数回の狂言自殺まで試みてしまう。そしてD子が29歳のとき、とうとう二人は離別を迎えた。 だが3年たった今でも、彼女の髪は短く、体重も43キロをキープしている。充分にスレンダーな身体でありながら、太るのが怖くてダイエットを止められない。彼女の摂食障害は、まだ続いている。
1,摂食障害の原因
以上の症例を見てわかるように、摂食障害の原因は人によって様々である。はたから見れば“些細な”事が引き金となっていることが多いが、いずれにせよ他人が簡単に分析できるほど単純ではない、というのが真実のようだ。主に見られる共通点を挙げると、次のようなものがある。
l 過激なダイエット
l 肉親の死などの精神的ショック
l 生活環境の変化などによる過度のストレス
また、摂食障害になりやすい性格、あるいは、摂食障害の人に共通して見られる性格は次のようなものである。
l まじめ,神経質,完璧主義,努力家
l 傷つきやすく、いつも人に気を使う
l 比較的美意識が強い
l 表向きは家庭に恵まれているが、内実は母との軋轢がある
l 他者依存的な傾向が強い
l 便秘やむくみを異常に気にし若い頃から下剤、浣腸、利尿剤を常用している
2,摂食障害の特徴
3,摂食障害の合併症
(1)過食と嘔吐の結果生じるもの
@虫歯,歯のエナメル質浸食
嘔吐をくり返すと、胃酸が何度も口の中に上がるため、歯のエナメル質が解けて歯がボロボロになり、痛みが出たり、虫歯が治りにくくなったりする。
A唾液腺炎
過食が習慣になっていると、食べ物が口に入っている時間が長いためいつも唾液腺が刺激された状態になり、唾液腺が大きく腫れることがある。さらに、口腔内が不潔な場合、細菌が唾液腺の中に入って炎症を起こし、かなり痛むことがある。
また、嘔吐するのが日常的になっている人が、治療の途中で嘔吐するのを止めるようになると、それまで大量に流れていた唾液の量が減り、唾液腺の中が詰まりやすくなって炎症が起きるということもある。
B電解質のアンバランス
胃液や腸液の中にはカリウムが含まれており、嘔吐したときや下剤を多量に使って水分の多い便が出た場合などには、このカリウムが多量に失われ、かなり深刻な低カリウム血症になることもある。
心臓はカリウムの増減にかなり敏感に反応するため、カリウムが減少すると、不整脈になったり心臓が止まったりもする。また、カリウムは神経の働きにも影響を及ぼすので、手足がしびれる・突っ張るといった自覚症状が出ることもある。
(2)慢性の栄養失調の影響
@冷え性,低血圧
人間の体温は普通まわりの空気の温度より高く、放っておけばどんどん熱を放散することになるが、実際は脂肪組織に断熱効果があり、適切なエネルギーの食べ物を摂取することで、36度以上の体温を保っている。拒食プラス過食の症状が強くて体重が軽い場合、体温や血圧はたいてい普通の人より低い。これは、脂肪組織の減少により熱が奪われやすくなっているということもあるが、身体に入ってくるエネルギーがあまりにも低いので、無駄な熱やエネルギーを使わないほうに、体温も低く、脈もゆっくりになっていくためである。つまり、低体温,低血圧,徐脈といった、言わば冬眠中の動物のような状態になってしまうのである。
A貧血
血液中の赤血球は作っては壊れていくものなので、摂食障害により栄養が不足すれば新しい血球は作られず、赤血球が少ない状態つまり貧血になる。赤血球は酸素を全身に運搬する役割を担っているので、貧血が進むと疲れやすかったり、ちょっとしたことで動悸がしたりする。
B骨粗鬆症
骨は骨細胞と破骨細胞によって毎日作られたり壊れたりしており、これには様々な物質が関与してくるが、その一つに女性ホルモンがある。摂食障害で脂肪の量が減ると、活性のある女性ホルモンが減るため、骨にカルシウムの沈着が少なくなって老人と同じような状態になり、骨粗鬆症になってしまうことがある。
C無月経,無排卵
女性ホルモンは卵巣から分泌されるが、その分泌は視床下部-下垂体-卵巣という経路で調節されるため、栄養状態や精神状態の影響を受けやすい。摂食障害で体重が減少したり、精神的に非常に不安定になったり、極端な低栄養状態が続いたりすると、ホルモン分泌に異常をきたし、無月経や無排卵になることがある。また、エネルギー不足のために、子宮そのものが小さく萎縮してしまうこともある。
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